ジブリが「ディズニー」や「ピクサー」になれなかった理由とは?

2月24日、宮崎駿監督がアニメーション制作への「復帰」を表明しました。宮崎監督は2013年の「風立ちぬ」をもって映画制作からの引退を表明していましたが、あれから約3年半後の今日に電撃復帰を行なったようです。宮崎監督はすでに新作長編映画の制作に入っているとのことです(参考: 日本経済新聞)。ジブリの鈴木敏夫さんから発表があったということは、おそらく制作はスタジオジブリになると思われます。

スタジオジブリといえば、宮崎駿監督引退後は、「思い出のマーニー」を最後に新作が制作されず事実上の解散状態でした。その理由は赤字で採算が取れなくなったからと言われています。ちなみに2016年公開のレッドタートルはフランスの制作会社によるもののようです。

このようにスタジオジブリは宮崎駿監督がいないとうまく機能しないようです。いったいなぜ、スタジオジブリはディズニーやピクサーのような、伝統あるアニメーションスタジオになれなかったのでしょうか。ディズニーはウォルト・ディズニーの死後から50年以上経った今も新作を作り続けています。今回は両者の「文化の違い」という観点から見ていきましょう。

ジブリのやり方


ジブリの制作スタイルは基本的に監督からのトップダウン方式で作られるようです。例えば宮崎駿さんがAで行くと言ったら、下々のアニメーターが指定通りにAで施工します。もちろん、このやり方は宮崎駿さんのような天才的カリスマでないと上手くいかないと思われます。実際に息子の宮崎五郎監督が「ゲド戦記」を制作したときは、宮崎駿監督のような大傑作には仕上がりませんでした。そのため、スタジオジブリには宮崎駿さんや高畑勲さんのようなカリスマがいないと機能しないようです。しかし宮崎駿さんのようなカリスマは世界に1%もいません。だからカリスマが抜けた後のジブリには”あのような傑作”を作ることができなくなったのかもしれません。このようにジブリには”個”の影響力が大きいようです。

ピクサーのやり方


ピクサーは「ブレイントラスト会議」というアニメーター20名以上を集めて制作中の映画にびしばしとダメ出ししながら制作を進めます。「あのシーンは分かりにくいからアングルやカット割りを変えた方がいい」、「ストーリーの最も盛り上がる場面のインパクトが弱い」などと精鋭たちが指摘し合うそうです。もちろんこれができるのは互いを信頼しあっているからであるし、そういう「文化」がピクサーには根付いているからです。実際に「ファインディング・ニモ」や「ウォーリー」の監督を務めたアンドリュー・スタントン監督は、

「映画は患者で 、ブレイントラストは信頼できる医師の集まりだ」

と言っているようです(参考: ピクサー流創造する力)。このように、ピクサーにとって映画とはスーパースターの個人プレーで作るものではなく、優秀なプレーヤーたちが協力し合って作っていくという文化があるようです。2006年にピクサーが正式にディズニーの傘下に入ってからは、親会社のディズニーアニメーションスタジオにもこのやり方が逆輸入されました。一時は駄作続きだったディズニーもピクサーを併合したことで、ラプンツェルやシュガーラッシュ、アナ雪、ベイマックス、ズートピアなどの傑作を連発できるようになりました。それには間違いなくこの「ピクサーの文化」が影響しているでしょう。今やディズニーという会社は「個」ではなく「全」で機能しているようです。

ジブリはこうあるべきだった!?


スタジオジブリを存続させるためには、宮崎駿さんに全体を統括する制作総指揮の立場に回ってもらい、ピクサーのようなブレイントラスト会議で映画を作っていくべきだったのかもしれません。ジブリのレベルなら優秀なアニメーターの方がたくさんいたと思うので、彼らを会議に参加させて容赦なくダメ出ししながら一本の作品を作っていく「文化」を育むべきだったのです。

新人にはショートフィルムで経験を積ませて、宮崎五郎さんや米林さん以外のアニメーターにも新作のアイデアを募って監督をしてもらって文字通り”スタジオジブリとして”新作を作っていくべきでした。その文化が根付いていれば、もしかしたら宮崎駿さん引退後もスタジオジブリは魅力的な新作映画を作り続けることができたのかもしれません。もちろんそれ以前に「制作費の問題」をどうにかしなければいけませんが。

最後に


今回は「文化の違い」で話をまとめましたが、最後にお金の話をしておきます。もしスタジオジブリが後継者を育成できていても、制作費が不足して赤字を垂れ流したのでは新作を作るのは難しかったのかもしれません。制作費不足はアニメ界における一番の問題のようで、「シュレック」や「ヒックとドラゴン」で有名なアメリカの超大手制作会社「ドリームワークス」でさえも、興行収入だけで制作費をまかなうのは厳しいと言われています(参考: シネマトゥデイ)。

ピクサーが憎っくきディズニーに買収されたのも、制作費の心配から解放されるためでした。このように、アニメの制作にはそれほどお金がかかるのです。つまり新作アニメを作り続けるためには、アニメーターの給料をクソ安くしてブラック化するか、ディズニークラスのお金持ち企業が制作費を出すしかないようです。そう考えるとジブリが真の意味でディズニーやピクサーになりたいのならば、まずはジブリ自身が興行収入以外で稼げるお金持ち企業になる必要があります。ディズニーのようにテーマパークや有料チャンネルを持つなど、アニメ制作以外のマネタイズが必要なのです。どうやら“夢を買うためにはお金がいる”ということのようですね。